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α7ニコチン性アセチルコリン受容体の抗炎症効果と鍼治療 [鍼治療を考える]

アストログリアα7ニコチン性アセチルコリン受容体(α7nAChR)の抗炎症効果は、NF-κB経路の阻害およびNrf2経路の活性化によって媒介されると報告されている(1)。

さらに、以前の研究で、百会(Baihui ;GV20)への電気鍼の前処置によって、再灌流後の神経細胞のアポトーシスとHMGB1放出抑制による梗塞量の減少および神経学的転帰が改善し、この効果がα7nAChRの神経発現の減少抑制によると報告されている(2)。

α7nAChRは、中枢神経系(CNS)および末梢に広く分布しており、CNS内では、これらの受容体はニューロンおよびグリア細胞で発現され、学習、記憶などに積極的に関与している。また、アミロイド-β、グルタミン酸塩、オカダ酸、エタノールなどによって誘導される毒性に対して神経保護作用を示す。

したがって、α7nAChRは様々な神経変性疾患において潜在的な治療標的として重要であり、さらに、鍼治療はこれらの疾患に対して効果が期待できる。

実験では、α7nAChR活性化による抗炎症および抗酸化作用を、一次アストロ培養におけるリポ多糖類(LPS)を用いた神経の in vitro マウスモデルにおいて評価。NF-κB経路に対するα7 nAChRの抗炎症作用はELISA遺伝子発現解析、免疫蛍光分析、ウエスタンブロット法を用いて評価。

α7nAChR 媒介抗炎症反応における Nrf2 経路の役割は Nrf2 ノックアウトアストロサイトを用いて評価。正規 Nrf2 標的遺伝子の発現プロファイルに対するα7nAChR 活性化の抗酸化作用を定量的 PCR とウエスタンブロット法により検討。

脳 ex vivo nf-b ルシフェラーゼシグナルはLPS注入NF-κBルシフェラーゼレポーターマウスモデルのα7nAChR アゴニストによる治療後に評価。

α7nAChRアゴニストGTS21を用いた星状細胞の処理によって用量依存的にLPS媒介炎症性サイトカインが減少し、この効果はα7nAChR発現の薬理学的および遺伝的阻害の両方によって逆転された。このα7nAChR活性化による抗炎症効果はNF-κB経路を介するものであることが示された。また、α7nAChRアゴニストによる治療が、α7nAchRの抗酸化特性を示唆するカノニカルNrf2抗酸化遺伝子およびタンパク質をアップレギュレートすることを実証した。星状細胞馴化培地アプローチを用いて、GTS21処理によるニューロンのアポトーシスが減少した。

NF-κBルシフェラーゼレポーターマウスにおけるLPSを用いたインビボ神経炎症モデルにおいて、生物発光イメージングによってGTS21で処置した脳のLPS誘発NF-κB活性の低下を実証。さらに、NF-κB経路の下流にある前炎症性サイトカインの発現の低下、およびGTS21治療を受けた脳組織におけるNrf2標的遺伝子の増加を観察した。

一方、百会(Baihui;GV20)への電気鍼(EA)の前処理が脳虚血傷害に対する耐性を誘発し、この効果のメカニズムを、ラットにおける脳虚血虚血再灌流モデルを用いてα7nAChRの発現に対する影響が報告されている。

ラットは、120分間中間脳動脈閉塞によって大脳虚血を誘発させ、神経スコア、梗塞量、神経細胞アポトーシス、高機動グループボックス 1(high mobility group box 1;HMGB1)レベルを再灌流後に評価。

その結果、百会へのEA の前処理は、虚血脳における再灌流後のα7nAChR発現の減少を防止した。.また、α7nAChRアゴニストの PHA-543613による前処理は虚血性の脳損傷に対する神経保護効果を示し、拮抗薬である、α-bungarotoxin (α-BGT) の前処理によって、HMGB1 放出におけるPHA-543613の抑制効果は逆転された。

これらの知見は、鍼および薬理学的戦略を通じて、α7nAChR活性化の抗炎症作用を活用することが脳卒中治療の新たな可能性となり得ることを示唆している。

引用文献
1.
Anti-inflammatory effects of astroglial α7 nicotinic acetylcholine receptors are mediated by inhibition of the NF-κB pathway and activation of the Nrf2 pathway
Jessica McIntire, Sarah Ryan, et al.,
Journal of Neuroinflammation201714:192 https://doi.org/10.1186/s12974-017-0967-6

2.
Electroacupuncture pretreatment attenuates cerebral ischemic injury through α7 nicotinic acetylcholine receptor-mediated inhibition of high-mobility group box 1 release in rats.
Qiang Wang, Feng Wang, Xin Li, et al.,
Journal of Neuroinflammation20129:24 https://doi.org/10.1186/1742-2094-9-24

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高血圧における代謝異常と鍼治療効果 [鍼治療を考える]

高血圧症は代謝異常を伴う疾患であると言われており、血漿オレイン酸(OA)およびミオイノシトール(MI)は潜在的な高血圧バイオマーカーであり、鍼治療によって降圧効果とともにこれらの数値が改善したと報告されている(Mingxiao Yang, et al.,2016)。

高血圧患者と健康な被験者の血漿より、47種の化合物について、MRM-MS(Multiple Reaction Monitoring-Mass Spectrometry)を使用して検出し、バイオマーカーを調査。さらに、鍼治療による降圧効果と、そのバイオマーカーの変化を調査。

47種の代謝産物または化合物
L-チロシン、L-フェニルアラニン、L-スレオニン、L-(+)- 乳酸、L-バリン、L-ロイシン、L-プロリン、ベタイン、パルミチン酸、ステアリン酸、グリシン、(±)オレイン酸、エイコサン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、ノナン酸、ガラクトース、スクロース、ソルビトール、ミオイノシトール、フルクトース、セロビオース、尿素、イソロイシン、β-シトステロール、β-シトステロール、L-トリプトファン、アラニン、クエン酸、アゼライン酸、アスパラギン酸、4-ヒドロキシ安息香酸、ピメリン酸、L-セリン、ヒポキサンチン、D-ホモセリン、尿酸、トリメチラルアミンオキシド、ペンタン二酸、アラントイン、リノール酸、シトルリン、オキサロ酢酸およびソルボースα-ケトグルタル酸。

鍼治療の主穴は、太衝(Taichong-LR3)と人迎(Renying-ST9)。その他任意の経穴として、太谿(Taixi-KI3)、内関(Neiguan-PC6)、足三里(Zusanli-ST36)、曲池(Quchi-LI11)。30分間の治療を週3回、6週間行っている。

鍼治療は、血圧を24時間低下させて概日リズムを改善し、OAおよびMIの異常を正常化させた。鍼治療後、ALT、BUNのレベルは有意に低下した(P <0.05)。他のパラメータに関しては、鍼治療前と鍼後の比較で有意差は認められなかった。

鍼治療によって、血圧のリズムのMensor、Amplitude、およびAcrophaseが変化。BPリズムのmensor±SE(標準誤差)は、145.61±0.95mmHg(収縮期)および84.86±0.65mmHg(拡張期)から138.50±1.03mmHgおよび82.10±0.62mmHgに有意に低下した。

但し、ベースラインから治療後24時間の血圧の推定変化の95%CIは、10mmHg以下であった(SBP前対後:SBP:2.41〜6.63mmHg; DBP:0.85〜3.87mmHg)。

現時点で、これらの代謝物が鍼治療の抗圧効果にどのように関与しているかは不明。鍼治療の血糖降下作用については遊離脂肪酸(FFA)の減少に起因すると示唆されている(1.2)。また、鍼治療が非アルコール性脂肪肝疾患のラットのFFAを減少させ、それによって脂質生成と肝脂肪蓄積を減少させることが示されている(3.)。したがって、FFA代謝の調節は、鍼治療の高血圧治療効果の重要な要因として推測される。

軽度の大脳動脈閉塞において、鍼治療はアンジオテンシンIIの発現増加を抑制し、その受容体媒介ホスファチジルイノシトールシグナル経路に影響を与える。結果的に、血管収縮を減少させて虚血領域への血液供給を改善する。

イノシトール3リン酸シグナル伝達経路は、鍼治療の調節効果に関わる主要な細胞内メッセンジャー分子経路の1つであり、鍼治療の血圧におよぼす重要な効果である。

治療穴として、別の報告を見ると。
自発的高血圧ラット (SHR) モデルに対する、血圧 (BP) および尿代謝産物への手技鍼 (MA) の効果を調査した研究報告がある。人迎(ST9)への刺鍼のみで、α-ケトグルタル酸、N-アセチルグルタミン酸、およびベタインを含む尿代謝産物が増加し、収縮期および拡張期血圧, 平均動脈圧と心拍数が鍼治療後に有意に減少した(4.)。

出典文献
A Targeted Metabolomics MRM-MS Study on Identifying Potential Hypertension Biomarkers in Human Plasma and Evaluating Acupuncture Effects
Mingxiao Yang, Zheng Yu, Shufang Deng, Xiaomin Chen, Liang Chen, et al.,
Sci Rep. 2016; 6: 25871.
Published online 2016 May 16. doi: 10.1038/srep25871

1.
Hypoglycemic effects and mechanisms of electroacupuncture on insulin resistance. Yin, J. et al.Am. J. Physiol. Regul. Integr. Comp. Physiol. 307, R332–R339 (2014).

2.
Electroacupuncture improves glucose tolerance through cholinergic nerve and nitric oxide synthase effects in rats. Lin, R. T. et al.,Neurosci. Lett. 494, 114–118, 10.1016/j.neulet.2011.02.071 (2011).

3.
Impact of electro-acupuncture on lipid metalolism in rats with non-alcoholic fatty liver disease. Zhu, L. L., Wei, W. M., Zeng, Z. H. & Zhuo, L. S. Sichuan Da Xue Xue Bao Yi Xue Ban. 43, 847–850 (2012).

4.
Effects of acupuncture on the urinary metabolome of spontaneously hypertensive rats. Ying Wang, Yang Li, Liang Zhou, Lin Guo, http://dx.doi.org/10.1136/acupmed-2016-011170

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好中球エラスターゼの阻害はOAにおける慢性神経因性疼痛を防止する [医学一般の話題]

モノヨードアセレート(MIA) 誘発 OA における研究で、内因性好中球エラスターゼとプロテアーゼ活性化受容体-2 (PAR2)が、関節炎症, 疼痛, 神経障害(伏在神経損傷)の発症に関与することが示唆されている。さらに、好中球エラスターゼ阻害剤であるsivelestat と serpinA1による早期治療とPAR2遺伝子の ノックアウトによって、好中球エラスターゼの蛋白分解活性を遮断して関節炎症、疼痛、および伏在神経損傷の持続的な改善効果が認められた。今後、新たな治療目標となる可能性がある。

実験では、MIA (0.3 mg/10 μ l) を雄 C57BL/6 マウス (20 ~ 34 g) の右膝関節に注入。関節の炎症 (浮腫、白血球動態)、好中球エラスターゼ蛋白分解活性、触覚アロディニア、および伏在神経の脱随を、注射後14日で評価。sivelestat (50 mg/kg i.p.)と serpinA1 (10 μ g i.p.) を用いて、MIA の初期炎症期における好中球エラスターゼ阻害効果 (0 ~ 3 日) を測定。PAR2 拮抗 GB83 (5 μ g i.p. 日 0 ~ 1) および PAR2 ノックアウト動物を用いて、MIA 誘発関節炎と疼痛の発症における PAR2 の関与を検討。

sivelestatと serpinA1による早期治療は、1日目 (p < 0.001)における好中球エラスターゼの蛋白分解活性を遮断し、関節の炎症、疼痛、および伏在神経損傷 (p < 0.05) の持続的な改善を引き起こした。MIA 誘発炎症は GB83 との早期治療によって逆転し、PAR2 ノックアウトマウス (P < 0.05) で減衰した。PAR2 ノックアウトマウスでは、生理食塩水コントロールに比べ、MIA 誘発関節痛 (p < 0.0001) と神経の脱随は認められなかった (p = 0.81 有意差無し)。

変形性関節症 (OA) 患者の一部は、神経因性関節痛を生ずる。好中球エラスターゼや、セリンプロテアーゼなどのメディエーターが急性 OAの炎症において放出される。エラスターゼの局所投与によって、プロテアーゼ活性化受容体-2 (PAR2) の活性化を介して関節の炎症や痛みを引き起こすことが示唆されている。

OAの発症には炎症が関与しており(1.2.)傷害に続いて、多数の炎症性メディエーターが放出されて関節変形および疼痛を引き起こす。腫瘍壊死因子α (TNF-α)、インターロイキン1β (il-β)、およびインターロイキン 6 (il-6) のような様々なサイトカインは、関節内の炎症促進に作用する(3.4.5.)。また、これらの炎症物質は神経障害を誘発して神経因性疼痛反応を引き起こし(6.7.)、同時に、末梢神経系がOA の早期発症に貢献している 。この急性炎症性 OAの 応答にはサブスタンスP(SP) やカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)などの炎症性ペプチドが関与しており、これらのメディエーターは末梢神経障害を引き起こすことが知られている(8.9.10.))。

炎症部位に存在する免疫細胞は、好中球エラスターゼ、カテプシンG、プロテイナーゼ-3、およびトリプシンなどのセリンプロテイナーゼを放出し、関節軟骨の崩壊や軟骨下骨をリモデリングする(11.12.)。

好中球は炎症部位に到達すると好中球エラスターゼを放出し、エラスチン線維、IV型コラーゲン、プロテオグリカン、フィブロネクチンなどの結合組織成分の分解を開始する。さらに、好中球エラスターゼは、マウスの関節内においてプロテアーゼ活性化レセプター-2 (PAR2) を活性化して急性炎症や痛みを誘発する(13.)。
この応答は神経原性で、好中球エラスターゼによるPAR2を活性化し、さらに、一過性受容体ポテンシャルバニロイド4(TRPV4)の活性化によって、神経感作、炎症および痛みを誘発する原因となる(14.)。

SERPINA1 遺伝子は、セリンプロテアーゼ阻害剤 (serpin) の一種であるα-1 トリプシンの産生を指示する。Serpinsは、特定の酵素の活性を阻害する。

OA の定義についてはまだコンセンサスがあるとは言えないので、モノヨードアセレート(MIA) 誘発関節炎をOAのモデルとして評価できるのかは釈然としない。遺伝的、ホルモン、栄養、神経、自己免疫などのメカニズムが示唆されているが、根本的なメカニズムは完全には解明されていない。しかし、膝OA発症に伏在神経が関与することは、鍼治療を考える上での後押しとなるように思う。

(この文献は全文読めるので、実験結果などの詳細は原文を参照されたい。)

出典文献
Prophylactic inhibition of neutrophil elastase prevents the development of chronic neuropathic pain in osteoarthritic mice.
Milind M. Muley, Eugene Krustev, Allison R. Reid and Jason J. McDougallEmail
Journal of Neuroinflammation201714:168 https://doi.org/10.1186/s12974-017-0944-0

二次文献
1.
Berenbaum F. Osteoarthritis as an inflammatory disease (osteoarthritis is not osteoarthrosis!). Osteoarthr Cartil. 2013;21:16–21.

2.
Sokolove J, Lepus CM. Role of inflammation in the pathogenesis of osteoarthritis: latest findings and interpretations. Ther Adv Musculoskelet Dis. 2013;5:77–94.

3.
Saklatvala J. Tumour necrosis factor alpha stimulates resorption and inhibits synthesis of proteoglycan in cartilage. Nature. 1986;322:547–9.

4.
Goldring MB, Birkhead J, Sandell LJ, Kimura T, Krane SM. Interleukin 1 suppresses expression of cartilage-specific types II and IX collagens and increases types I and III collagens in human chondrocytes. J Clin Invest. 1988;82:2026–37.

5.
Kaneko S, Satoh T, Chiba J, Ju C, Inoue K, Kagawa J. Interleukin-6 and interleukin-8 levels in serum and synovial fluid of patients with osteoarthritis. Cytokines Cell Mol Ther. 2000;6:71–9.

6.
Milligan ED, Twining C, Chacur M, Biedenkapp J, O’Connor K, Poole S, Tracey K, Martin D, Maier SF, Watkins LR. Spinal glia and proinflammatory cytokines mediate mirror-image neuropathic pain in rats. J Neurosci. 2003;23:1026–40.

7.
Schafers M, Svensson CI, Sommer C, Sorkin LS. Tumor necrosis factor-alpha induces mechanical allodynia after spinal nerve ligation by activation of p38 MAPK in primary sensory neurons. J Neurosci. 2003;23:2517–21.

8.
Coudore-Civiale M, Courteix C, Boucher M, Fialip J, Eschalier A. Evidence for an involvement of tachykinins in allodynia in streptozocin-induced diabetic rats. Eur J Pharmacol. 2000;401:47–53.

9.
Tatsushima Y, Egashira N, Kawashiri T, Mihara Y, Yano T, Mishima K, Oishi R. Involvement of substance P in peripheral neuropathy induced by paclitaxel but not oxaliplatin. J Pharmacol Exp Ther. 2011;337:226–35.

10.
Malon JT, Maddula S, Bell H, Cao L. Involvement of calcitonin gene-related peptide and CCL2 production in CD40-mediated behavioral hypersensitivity in a model of neuropathic pain. Neuron Glia Biol. 2011;7:117–28.

11.
Korkmaz B, Horwitz MS, Jenne DE, Gauthier F. Neutrophil elastase, proteinase 3, and cathepsin G as therapeutic targets in human diseases. Pharmacol Rev. 2010;62:726–59.
View ArticlePubMedPubMed CentralGoogle Scholar

12.
.Smith RL. Degradative enzymes in osteoarthritis. Front Biosci. 1999;4:D704–12.

13.
Muley MM, Reid AR, Botz B, Bolcskei K, Helyes Z, McDougall JJ. Neutrophil elastase induces inflammation and pain in mouse knee joints via activation of proteinase-activated receptor-2. Br J Pharmacol. 2016;173:766–77.
View ArticlePubMedGoogle Scholar

14.
Zhao P, Lieu T, Barlow N, Sostegni S, Haerteis S, Korbmacher C, Liedtke W, Jimenez-Vargas NN, Vanner SJ, Bunnett NW. Neutrophil elastase activates protease-activated receptor-2 (PAR2) and transient receptor potential vanilloid 4 (TRPV4) to cause inflammation and pain. J Biol Chem. 2015;290:13875–87.

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「重複性神経障害の概念を捨てよ」は妥当か [鍼治療を考える]

重複性神経障害(Double crush syndrome;DCS, Double crush hypothesis;DCH, double lesion neuropathy)はUptonとMaconas(1973)が提唱した概念(1)。

手根管症候群の患者には肘部管症候群との合併例が少なからず存在し、さらに、これらの患者では高率に頚椎症性神経根症(CSR)の合併が認められるとして、神経への圧迫はその末梢においても圧迫に対する易損性を生じさせるとし、その原因を軸索流の障害と考えている。

軽微な圧迫によってsubclinical neuropathyに陥っている神経幹は、圧迫部位の末梢における新たな圧迫に対して易損性であることは実験的にも証明されている(例えば、根本1983, )(2)。

私も、臨床においてDCSと思われる症例を頻繁に見かけることから、拙著「絞扼性神経障害の鍼治療」の中でその視点の重要性を指摘している。

しかし、Johnson(1997)は“Double crush syndrome”を欺瞞と断じ、「訓練の不十分な筋電図医が用いる前代の遺物であるとして、この概念を捨てろ」と述べている(3)。UptonとMaconasの報告には、CSRの診断における確実性などに問題点もあるが、Wilboun & Gilliatt(1997)らの批判の中でも本質的と言える指摘(4)について紹介し、それに対する私の細やかな反論を述べたい(以前に、後述したいと記していたので)。

決定的と思われる批判の第1点は、CSRの障害は神経根であることから圧迫部位は後根神経節の近位となるため、Waller変性や軸索流の障害は近位側に向かって進展する。したがって、遠位側に軸索障害が起こることはなく、C7由来の感覚神経成分に異常が生じて手根管症候群が合併することはあり得ないとする批判である。第2点として、園生の意見(5)では、手首の正中神経成分は腕神経叢において上中下神経幹外側内側神経束とさまざまに分かれて存在するので、それらの全てを障害する必要がある。また、電気生理学的異常を伴わない程度の障害で、遠位に脆弱性が生ずることは考えにくいとも述べている。何れも、一見完璧な否定的意見ではあるが、はたしてそうだろうか。

長くなるので、本稿では第1点の問題について考えたい。

犬の腰椎神経根の実験で、異なる圧力を持つ4種類のクリップを使用して圧迫し、脊髄背側後角, 神経根, 後根神経節における P 物質(SP)および ソマトスタチン(SOM)を免疫組織化学的手法によって検出し、神経根圧迫後の軸索流の変化を調査した研究報告がある(6)。

その結果、圧迫後24時間で神経根の軸索流が損なわれ、圧迫部位の遠位に SP と SOM の蓄積が認められた。また同時に、後根神経節の細胞数の減少も認められた。さらに、1週間の圧迫によって、脊髄背側後角の SP とSOM 陽性線維の数が減少した。この実験では、後根神経節より遠位の末梢神経への影響までは調査されていない。しかし、神経根への圧迫の影響が後根神経節や脊髄までおよぶことが明らかとなり、さらに、その影響として、何らかの障害が末梢へもおよぶ可能性もあり得るはずである。

同様の報告として、雑種犬の腰椎神経根に、クリップを使用して7.5 gf の圧力で24時間、1週間、および3週間圧迫した実験もある。

軸索反応に続発した後根神経節における一次感覚ニューロンの形態変化を光学顕微鏡と電子顕微鏡によって調べ、サブスタンスP (SP)、カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)、ソマトスタチン (SOM) の変化を免疫染色にて検討している。光学顕微鏡では、圧迫開始から1週間後に後根神経節細胞に色素融解(chromatolysis)を生じ、形態学的変化を認めた(同様の実験報告は他にも多数有り)。影響を受けたニューロンの電子顕微鏡観察では、細胞核の中央部から周囲への動きと、rough endo-plasmic胞体とミトコンドリアの喪失が明らかになった。免疫組織化学的研究では、中枢の小神経節細胞においてSP、CGRP、SOMが著しく減少した。結論として、神経根圧迫の患者では、機能不全は圧迫サイトの変性に限定されていないことを認識することが重要だと記されている(7)。

神経根への圧迫の影響が、順行性の軸索流の方向だけではなく、その反対側の後根神経節にまでおよぶのであり、さらに、その末梢へも影響する可能性を考慮する必要がある。

剖検による所見によって、subclinicalな状態ですでに絞輪間部分の部分的先細りを伴う随鞘の球状変化という形態学的異常が以前より報告されている。最近の知見では、随鞘形成細胞はミトコンドリアの機能維持を含めた軸索の代謝を補助しており、軸索の発達と生存に必須である。同時に、軸索のシグナルは髄鞘形成細胞、シュワン細胞の分裂、分化、髄鞘の形成と維持に関与している。また、絞輪間部分にその大部分が存在するミトコンドリアは軸索におけるATPの供給源であることから、エネルギー依存性である軸索輸送の維持に重要である(8.9.)。

軸索流(Axoplasmic flow)には、細胞体から神経末端方向への順行性輸送(Anterograde transport) と神経末端から細胞体方向への逆行性輸送(Retrograde transport)があり、軸索内を様々な物質が両方向へ同時に輸送されている。軸索輸送とは、水道管の中を一方向に水が流れるような単純なものではない。

細胞体から神経末端への速い順行性輸送(200-400mm/日)はキネシン(Kinesin)というモーター蛋白が、ミトコンドリア、シナプス小胞、神経伝達物質、酵素等を輸送している。一方、神経末端から細胞体へ向かう速い逆行性輸送(50-100mm/日)は、ダイニン(Dynein)というモーター蛋白が、再利用する蛋白やシナプス小胞、成長因子や代謝物質などを輸送している。遅い軸索輸送では、細胞体から神経末端へニューロフィラメントなどを運ぶ流れ(0.1-2.5mm/日)と、アクチンやカルモジュリンなどを運ぶ(2-6mm/日)ものがある。さらに、未だ未知のモーター分子も存在している。

軸索内では、ナノスケールの微小管のレールの上を、これらのモーター分子が歩くようにして運んでいるのである。この分子の移動速度は、分子を人の大きさにすると秒速100mにも達し、その移動距離は1mの軸索では10万Kmにも相当する、途方も内ない作業なのである。

さらに複雑なのは、微小管の線維は150~500ミクロンの長さしかなく、軸索の端から端までつながってはいない。モーター蛋白は、この互い違いに並んだ線維に荷物を積んだまま見事に乗り換えながら高速で走っているのである。この蛋白には2本足のものと1本足のものがあるが、1本足の場合の移動方法は定かになっていない。

機械的圧迫による神経根内の血流と神経線維の変形が、腰椎椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症などの根症状の病態に関与すると考えられている。しかし、神経根圧迫に伴う軸索流の変化の研究は極めて少なく、確かなことは言えないのが現実である。私には、Wilboun & Gilliattらや園生の批判は単純過ぎるように思われる。また、何が何でも、症候の原因を単一病変に求めようとするのは少々傲慢に思える。私は常に、患者の訴える症状の原因は単一ではなく、複数の病態が合併していることを念頭に置いて診察を行うよう心がけている。

頚椎症性神経根症(CSR)の診断について、念のため一言付け加えると。神経根の圧迫が、それのみで痛みを発現しないことは周知の事実。症状の発現には、神経伝達物質や様々な炎症性サイトカインなどの化学的因子が関与する。また同時に、末梢神経の損傷や慢性的圧迫が後根神経節の急性圧迫と同様の反応を惹起することも指摘されている。

画像上、加齢とともにヘルニアの存在や神経根の圧痕形成の頻度は増加するが、有病率は逆に減少する。形態学的変化をそのまま病態として決めつけ、症状発現の原因と判断することが短絡的であることを示唆している(これまでにも、本ブログで繰り返し述べている)。

引用文献
1.
Upton AR. McComas AJ, The double crush in nerve entrapment syndromes, Lancet 2:359-362,1973.

2.
根元孝一, 末梢神経障害に関する実験的研究, 日本整外会誌, ;57:1773-1786,1997.

3.
Johnson EW, Double crush syndrome . A definnition in search of a cause , Am J Phys Med Rehabil, 76:439, 1997.

4.
Levin KH, Wilbourn AJ, Magginano HJ, Cervical rib and median sternotomy -related brachial plexopathies : a reassessment , Neurology,50:1407-1413,1998.

5.
園生雅弘上肢のいわゆる「ダブルクラッシュ症候群」についての電気生理学的・臨床的考察, 脊椎脊髄ジャーナル, vol.25no.12, 1129-1137, 2012.

6.
Effect of lumbar nerve root compression on primary sensory neurons and their central branches: changes in the nociceptive neuropeptides substance P and somatostatin, Kobayashi S1, Kokubo Y, Uchida K, Yayama T, Takeno K, et.al., Spine (Phila Pa 1976). 2005 Feb 1;30(3):276-82.

7.
Pathology of lumbar nerve root compression. Part 2: morphological and immunohistochemical changes of dorsal root ganglion, Kobayashi S1, Yoshizawa H, Yamada S.
J Orthop Res. 2004 Jan;22(1):180-8.

8.
Nave KA.,Myelination and support of axnal integrity by glia, nature,468; 244-252,2010.

9.
大野信彦, 軸索と髄鞘の相互作用の分子メカニズム, 山梨医科学誌, 20(1);19-31,2014.


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後骨間神経絞扼性障害における近位橈骨神経病変 [鍼治療を考える]

橈骨神経の絞扼性障害には、肘の回外筋通過部位における後骨間神経の絞扼性障害である橈骨神経管症候群(後骨間神経障害症候群:PINS)と、これより中枢における圧迫である、高位橈骨神経絞扼性障害、および、さらに末梢における、橈骨神経浅枝(知覚枝)の絞扼性障害(異常感覚性手有痛症)があり、それぞれ単独の疾患名で呼ばれている(拙著:「絞扼性神経障害の鍼治療」を参照)。

しかし、高分解能磁気共鳴法による橈骨神経のvoxel(体積要素)正規化 T2信号の視覚評価と付加的定量分析によって、PINSの患者 (19名)の84%において、上腕レベルにおける近位橈骨神経病変(上腕橈骨関節より中枢8.3 ± 4.6 cm)が認められたと報告されている。

これらの病変のほとんどは(75%)特定の体性感覚パターンに従っているが、さらに猿位である後骨間神経の線維束が含まれていた。

これは、自著の中でも繰り返し述べていることではあるが、絞扼性神経障害の診察においては一カ所の絞扼の確認のみではなく、同一神経の中枢および末梢までも広く触診すべきことを示している。私も、上腕レベルへの施鍼も頻繁に行っているが、84%において、上腕レベルに病変が認められたとする結果は意外であった。

出典文献
Posterior interosseous neuropathy
Supinator syndrome vs fascicular radial neuropathy
Philipp Bäumer, Henrich Kele, Annie Xia, BSc, et. al.,
Neurology November 1, 2016 vol. 87 no. 18 1884-1891
doi.​org/​10.​1212/​WNL.​0000000000003287

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COPDの合併症として痛みが浮上 [鍼治療を考える]

COPD(慢性閉塞性肺疾患:Chronic obstructive pulmonary disease)は、2015 年度の世界における疾患別死亡原因の第4位となっている。COPDとは、慢性気管支炎と肺気腫を統合した疾患概念であり、一度発症した場合には治癒することはなく、適切な治療法もない。

最近、このCOPDの合併症として「痛み」の存在が浮上しており、重度の場合、中等度の痛みの有病率は 66%(95% CI, 44%-85%)と報告されている(Annemarie L. Lee,他2015)。また、強い疼痛は、呼吸困難、疲労、生活の質の低下、および特定の合併症に関連付けられていた。しかし、研究報告は極めて少なく、さらに、COPDに伴う痛みの治療に関する文献は現時点では見つからない。

発症してからでは治すことはできない疾患ではあるが、症状だけでも鍼治療で軽減できないものかと考えている。COPDに対する鍼治療に関する報告では、歩行距離が伸びた程度で、呼吸機能の改善は認められない。

患者数の増加を見込んで、数年前に、呼吸機能を評価するために電子スパイロメーターを購入したが、予想したほどには患者は現れない。他の症状で来院した高齢者に聞いても、それらしい症状を訴える患者は発症率から予想されるような人数には到底およばない。一般に言われる程、この疾患が本当に多いのか疑問にさえ感じている。ともあれ、痛みに対しては手段はあるものと、治療法は考えているのだが、、。

引用文献
Pain and Its Clinical Associations in Individuals With COPD A Systematic Review
Annemarie L. Lee, Samantha L. Harrison, Roger S. Goldstein, et. al.,
Chest, May 2015Volume 147, Issue 5, Pages 1246–1258
DOI: http://dx.doi.org/10.1378/chest.14-2690

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糖尿病患者における血圧目標値の問題 [医学への疑問]

糖尿病患者の血圧は、ガイドラインでは130/80mmHg未満が推奨されている。しかし、過去10年間にわたって議論が続いており、システマティックレビューではこれらの勧告の証拠を疑問視している(1.2.)。

73,738名の参加者を含む49件の、無作為化対照試験の系統的レビューとメタアナリシス研究によれば、降圧剤治療の効果はベースラインの血圧値によって違いが出ている(BMJ 2016)。

ベースラインの収縮期血圧が150mmHg より高い場合、降圧剤治療によって、すべての原因死亡率の相対リスクは0.89(relative risk 0.89, 95% confidence interval 0.80 to 0.99)で11%低下。同様に、心血管死亡率0.75 (0.57 to 0.99)、心筋梗塞0.74 (0.63 to 0.87)、脳卒中0.77(0.65 to 0.91)、末期腎疾患 0.82(0.71 to 0.94)と、それぞれ低下した。

140-150 mm Hg の場合も同様に、すべての原因死亡率0.87(0.78 to 0.98)、心筋梗塞 0.84(0.76 to 0.93)、心不全 0.80(0.66 to 0.97)で、リスクを減少させた。

しかし。
ベースラインの収縮期血圧が140mmHg 未満の患者への降圧剤治療は、すべての原因死亡率(1.05, 0.95 to 1.16)のリスク増加と、心血管の死亡率 (1.15, 1.00 to 1.32)のリスクを増加させた。

メタ回帰分析でも、ベースラインにおける各10 mmHgの低下によって、心血管死1.15(1.03 to 1.29)、心筋梗塞1.12(1.03 to 1.22)と、同様の傾向。

何れも、若干の上昇ではあるが、140mmHg未満ではリスクは高くなっており、これでは治療は有害と言える。したがって、130/80mmHg未満を目標値とすることには問題がある。

血圧の正常値は下げられ続けており、現在の基準値には疑問を感じている。また、一度、高血圧と診断されたなら、一生降圧剤を飲めまなければならないとする考にも疑問を感じている。

降圧薬には、交感神経のβ1を選択的に遮断する薬(メインテート)、アンジオテンシン遮断薬(ロサルタン)、カルシウム拮抗剤(カルブロック)などがあるが、何れも副作用はある。また、長期的に服用することによる、交換神経の反応、心臓そのものへの影響、および他の臓器・組織への影響も懸念される。そもそも何故血圧が上昇する事態になったのかの原因よりも、降圧の機序のみが注視されている。

出典文献
Effect of antihypertensive treatment at different blood pressure levels in patients with diabetes mellitus: systematic review and meta-analyses
Mattias Brunström, Bo Carlberg,
BMJ 2016; 352 doi: https://doi.org/10.1136/bmj.i717 (Published 25 February 2016)

1.
Reboldi G, Gentile G, Angeli F, Ambrosio G, Mancia G, Verdecchia P. Effects of intensive blood pressure reduction on myocardial infarction and stroke in diabetes: a meta-analysis in 73,913 patients. J Hypertens 2011;29:1253-69. doi:10.1097/HJH.0b013e3283469976. 21505352.

2.
Bangalore S, Kumar S, Lobach I, Messerli FH. Blood pressure targets in subjects with type 2 diabetes mellitus/impaired fasting glucose: observations from traditional and bayesian random-effects meta-analyses of randomized trials. Circulation 2011;123:2799-810, 9, 810. doi:10.1161/CIRCULATIONAHA.110.016337. 21632497.

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高血圧症では運動昇圧反射が過剰となる [鍼治療を考える]

運動は自立神経障害患者の機能的能力を改善し、心血管系疾患やⅡ型糖尿病を予防すると言われている。運動に伴う“運動昇圧反射exercise pressor reflex”は、骨格筋から発生した機械性および代謝性信号が脳の心血管中枢にフィードバックするもので、筋への灌流量を増加させ、心拍出量も酸素摂取量に比例して増加する。これは、迷走神経活動の低下によるもので、運動強度が最大平衡状態に達するまでは全身の交感神経活動増加の証拠は無いと自律神経学の本(例えば、ロバートソン自律神経学)には記されている。

このような根拠によって、抗高血圧症治療法として運動療法が処方されているが、事はそう単純ではない。高血圧症患者では、運動時に骨格筋からの刺激が過剰となり、交感神経活動を反射性に増加させて血圧を上昇させることが多くの研究で報告されており、この過剰な運動昇圧反射の生成には筋の mechanoreflexが関与している(Leal et al., 2008)。

残念なことに、身体活動中の血行動態の異常な変化は、運動中または直後に心臓血管や脳血管イベントのリスクを増加させる(Hoberg et al., 1990; Mittleman et al., 1993; Mittleman et al., 1996; Kokkinos et al., 2002)。それは、高血圧の非薬理学的治療としての運動処方の安全性を問うものとなる。

高血圧症における Mechanoreflex 機能障害は動物モデルによって実証されている。例えば、高血圧ラット (人間の本態性高血圧のモデル)の骨格筋を受動的に伸ばすと、心拍数と腎交感神経活動、および血圧が著しく上昇することが報告されている(Leal et al., 2008; Mizuno et al., 2011a)。

現時点では、高血圧症における mechanoreflex 機能不全の病態の末梢メカニズムを示す証拠はほとんど存在しない。一方、最近のデータでは、孤束核(nucleus tractus solitarius)内の一酸化窒素経路 (脳幹内の mechanoreflex 体性感覚の入力の初期処理のためのプライマリセンター)の異常が示唆されている(Kalia et al., 1981; Person, 1989; Toney et al., 1994; Toney et al., 1995)。

孤束核内のNO前駆体 L-アルギニンの低用量 (1 μ m) の透析によって、正常と高血圧ラットの両方において、受動的な筋の伸張によって誘発される昇圧応答が減少した。

高血圧ではアンジオテンシンII (Ang II) が増加する。このペプチドはnicotinamide-adenine dinucleotide phosphate(NADPH)酸化酵素を刺激することで、スーパーオキシドや他の活性酸素の産生を誘発して活動筋反射の賦活に貢献する(Koba, S., Gao, Z. & Sinoway, L. I.2009)。高血圧症ではAng II が活性酸素を増加させることで活動筋反射を過剰にすると報告されている

これらの知見から、高血圧症患者への鍼治療において、筋の緊張を緩和することによって血圧を低下させようとする方法には注意が必要となる。但し、高血圧で活動筋反射を過剰にする機構は正確には明らかになっていない。

引用文献
.Kalia M, Mei SS, Kao FF. Central projections from ergoreceptors (c fibers) in muscle involved in cardiopulmonary responses to static exercise. Circ Res. 1981;48:I48–I62. [PubMed]

Person RJ. Somatic and vagal afferent convergence on solitary tract neurons in cat: electrophysiological characteristics. Neurosci. 1989;30:283–295. [PubMed]

Toney GM, Mifflin SW. Time-dependent inhibition of hindlimb somatic afferent inputs to nucleus tractus solitarius. Journal of Neurophysiology. 1994;72:63–71. [PubMed]

Toney GM, Mifflin SW. Time-dependent inhibition of hindlimb somatic afferent transmission within nucleus tractus solitarius: an in vivo intracellular recording study. Neuroscience. 1995;68:445–453. [PubMed]

Anna K. Leal, Jere H. Mitchell, A. Smith,TREATMENT OF MUSCLE MECHANOREFLEX DYSFUNCTION IN HYPERTENSION: EFFECTS OF L-ARGININE DIALYSIS IN THE NUCLEUS TRACTUS SOLITARII, Exp Physiol. Author manuscript; available in PMC 2014 Sep 1.

Koba, S., Gao, Z. & Sinoway, L. I.:Oxidative stress and the muscle reflex in heart failure. J.
Physiol., 587:5227-5237, 2009.

アンジオテンシンII が運動時の交感神経賦活に与える影響,木場智史, 上原記念生命科学財団研究報告集, 25 (2011)

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本態性振戦は小脳系の機能不全にリンクされる進行性神経疾患 [医学一般の話題]

本態性振戦は身体の一部の震えを抑えられなくなる神経障害で、本態性と言われるように、脳機能の異常などの原因となる病態が見つかっておらず、生命に関わる疾患ではなく健康上の問題はないと認識されている。

しかしながら、コロンビア大学のElan D. Louisは、小脳皮質に構造変化を認め、病因の中心はプルキンエ細胞にあると報告している(1)。

これより以前にも、本態性振戦とtandem gaitが相関しており、さらに、認知機能も相関していることから、認知と運動回路に関与する広汎性障害であると報告されている(2)。

tandem gaitは、振り出した足の踵を軸足のつま先につけることを繰り返しつつ歩かせる歩行テストで、小脳機能に異常があれば、うまく足がそろわずによろけるか、転倒する。

そもそも、歩行動作は認識および運動神経系の両方が同時に要求される。最近は、高齢者における認知機能と運動機能、および神経疾患との様々な相互作用を調査した文献が増えており(3.)、認知障害によって転倒発生率が80%増加するなど、転倒の独立した予測因子であると報告されている(4)。

本態性振戦は一般的な疾患で、アメリカにおける患者数は約1千万人と言われている。振戦の程度は、非常に軽微なものから日常生活に支障を来すほどの重度なものまである。さらに、上記研究報告が示すように、原因が小脳にある進行性疾患であり、認知機能とも関連するなど決して侮れない疾患と言える。

引用文献

1.
From Neurons to Neuron Neighborhoods: the Rewiring of the Cerebellar Cortex in Essential Tremor
Elan D. Louis
Cerebellum. 2014 Aug; 13(4): 501–512.
doi: 10.1007/s12311-013-0545-0 PMCID: PMC4077904

2
Tandem gait performance in essential tremor patients correlates with cognitive function
Elan D LouisEmail author and Ashwini K Rao
Cerebellum & Ataxias20151:19
https://doi.org/10.1186/s40673-014-0019-2

3.
Rao AK, Uddin J, Gillman A, Louis ED. Cognitive motor interference during dual-task gait in essential tremor. Gait Posture. 2013;38:403–409. doi: 10.1016/j.gaitpost.2013.01.006. [PMC free article] [PubMed]

4.
Tinetti ME, Speechley M, Ginter SF. Risk factors for falls among elderly persons living in the community. N Engl J Med. 1988;319:1701–1707. doi: 10.1056/NEJM198812293192604. [PubMed]

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線維芽細胞増殖因子19はマウスの筋を肥大化させて萎縮を保護する [医学一般の話題]

最近、内分泌由来ホルモン線維芽細胞増殖因子 (FGF)19 は代謝疾患を治療するための潜在的な標的として注目されており、代謝器官である筋に対しても、筋線維の拡大を介して骨格筋肥大を引き起こして萎縮から保護すると報告されている。尚、これらの効果はFGF21では誘発されなかった。

in vitro および in vivo において、FGF19 は、細胞外シグナル安定化プロテインキナーゼ 1/2 (ERK1/2)と、リボソームタンパク質S6キナーゼ(S6K1)、および筋細胞成長の mTOR依存性マスターレギュレータのリン酸化を刺激する。

また、β-Klotho (KLB) の骨格筋特異的遺伝的欠乏を有するマウスは、FGF15/19 (refs. 2,3)のための偏性共受容体であり、FGF19 の肥大効果に反応しなかった。

マウスによる実験結果ではあるが、FGF19は、グルココルチコイド治療や肥満による筋萎縮、およびサルコペニア治療の可能性を有している。

Fibroblast growth factorファミリーは線維芽細胞を増殖活性化する因子で、22種類ほどが同定されている。FGF19は195アミノ酸からなる21.8KDaのタンパク質。

出典文献
Fibroblast growth factor 19 regulates skeletal muscle mass and ameliorates muscle wasting in mice.
Bérengère Benoit, Emmanuelle Meugnier, Martina Castelli, Stéphanie Chanon, et al.,
Nature Medicine (2017) doi:10.1038/nm.4363 Received 12 August 2016
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身体活動は認知症リスクに影響を与えないと報告 [医学一般の話題]

認知症の前臨床段階が、身体活動の減少によって特徴付けられると報告されている。

身体活動による認知症の保護効果は短期間の研究では一貫性が認められている。しかし、認知症は長期的な前臨床期間の変化を伴う進行性疾患であり、身体活動の変化も症状に含まれる可能性がある。したがって、通常10年以下の短期間のフォローアップでは因果関係の有無は決定できない。

調査は、ロンドンにおける市民サービス部門の“Whitehall II study”による、平均27年間フォローアップした前向きコホート研究。

参加者は、10, 308名。開始時点の年齢は35~55歳(1985-88)。中等度活発な身体活動は2.5 時間/週以上として分類。

認知テストは1997から2013まで4回実施し、認知症は329名が診断された。

混合効果モデルは、身体活動とその後15年の認知機能低下との関連付けを示さなかった。

同様に、cox 回帰でも、平均27年のフォローアップにおいて身体活動と認知症リスクとの関連付けは示さなかった(hazard ratio in the “recommended” physical activity category 1.00, 95% confidence interval 0.80 to 1.24)。

重要な点は、認知症の人の身体活動は診断前の9年までに減少し始め (中等度活発な身体活動との差は−0.39 時間/週(P=0.05)、診断時点ではさらに顕著に減少した(−1.03 hours/week; P=0.005)。

つまり、身体活動の少なさが認知症発症のリスクなのではなく、認知症の症状として身体活動の減少が起きている可能性が高い。

出典文献
Physical activity, cognitive decline, and risk of dementia: 28 year follow-up of Whitehall II cohort study.
Séverine Sabia, Aline Dugravot, Jean-François Dartigues, et al
BMJ 2017; 357 doi: https://doi.org/10.1136/bmj.j2709 (Published 22 June 2017)
Cite this as: BMJ 2017;357:j2709

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Ⅰ型コラーゲンのブロックがアストロサイト瘢痕形成を抑制して神経回復を促進する [医学一般の話題]

脊髄損傷後、Ⅰ型コラーゲンは反応性アストロサイトと相互作用し、テグ-n-カドヘリン経路を介してアストロ瘢痕形成を誘発して軸索の再生や機能の回復を阻害する。1型コラーゲンをブロックしてこの相互作用を阻害すると、アストロサイト瘢痕の形成が抑制され、軸索の再生および機能の回復が促進されたと報告されている。

中枢神経の損傷によって、正常なアストロサイトが反応性の瘢痕形成アストロサイトに変化して軸索の再生や機能の回復を阻害する。この反応性アストログリオーシスと呼ばれる表現型の変化は一方向性で不可逆的であると長く考えられてきた。

しかしながら、原 正光・岡田誠司らの研究によって (九州大学大学院医学研究院 整形外科学分野)、中枢神経損傷の治療における新たな方向性が示唆された。

出典文献
Interaction of reactive astrocytes with type I collagen induces astrocytic scar formation through the integrin-N-cadherin pathway after spinal cord injury.
Masamitsu Hara, Kazu Kobayakawa, Yasuyuki Ohkawa, Hiromi Kumamaru, Kazuya Yokota, Takeyuki Saito, Ken Kijima, Shingo Yoshizaki, Katsumi Harimaya, Yasuharu Nakashima, & Seiji Okada
Nature Medicine, DOI: 10.1038/nm.4354

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椎体終板変性分類のModic typeと腰痛との関連について [腰痛関連]

椎体終板変性の分類であるModic typeⅠ~Ⅲの中で、typeⅠは臨床的にactiveな変化と言われており、腰痛との関連が指摘されているが信頼性は不明。

変形性脊椎症の病態として、椎間板変性(髄核変性), 終板変性(椎間骨軟骨症), 骨棘形成が見られ、終板変性はModic typeⅠ~Ⅲに分類されている。typeⅠは骨髄浮腫(線維血管増生)の状態であり、MRIでは、T1強調画像で低信号、T2強調画像では高信号となる。

TypeⅡは脂肪変性(T1強調像高信号, T2等-高信号)、TypeⅢは骨硬化(終末像, T1強調像低信号, T2強調像低信号)で、何れも安定しており症状発現には関与しないと言われている。

固定術によって、脊椎の不安定性が改善されると信号強度が正常化したり、typeⅠからTypeⅡへ変化する。しかし、自然な経過でも、TypeⅠおよびⅢからTypeⅡへ変化したり、逆にⅡからⅠに変化する場合もあるなど、変化が可逆的であることから、症状の原因や手術結果の指標として使用することへの疑問が提起されている(1)。

ModicⅠの変化を有する25名と、正常23名を含む腰椎椎間板ヘルニア患者45名を対象とした、ヘルニア摘出後の腰痛を比較した研究がある。術後12、24ヶ月において、視覚アナログ尺度 (VAS) スコア、日本整形外科学会スコア (JOAS)、ウェスト障害指数 (ODI)によって評価したところ、何れも両群に差は認められなかった(2)。

したがって、腰椎椎間板ヘルニアの症状に終板の変化は直接的には関与しないようだ。

さらに言えば、腰椎椎間板ヘルニア患者において、対象者の半数をmodic変化無しのグループに設定できたことから、ヘルニア患者の中には終板に異常が無い者が少なからず存在することを意味する。したがって、終板骨折が生ずることで髄核が免疫細胞に曝されて自己免疫反応が生じ、この炎症によって髄核が劣化して椎間板ヘルニアが生じるとする発症機序は疑わしくなる。

終板の異常の成因としては、Modic TypeⅠまたはⅡの変化を持つ患者の終板の調査では、正常者と比較して、PGP 9.5-immunoreactive nerve fibers、およびTNF-immunoreactive cellsが有意に多く(P < 0.01)、細胞数はType ⅠがTypeⅡよりも多かった (p < 0.05)ことから、TNFによって誘発された炎症と軸索の成長に関連していることが示唆されている(3)。

私の結論としては、終板に見られるMRI画像の変化と症状を結びつけるための確かな証拠がないため、何とも言えない。

引用文献
(1)
Modic Vertebral Body Changes: The Natural History as Assessed by Consecutive Magnetic Resonance Imaging
Hutton, Michael J., Bayer, Jens H, D, Powell, John M.,
Spine: 15 December 2011 - Volume 36 - Issue 26 - p 2304–2307
doi: 10.1097/BRS.0b013e31821604b6

(2)
Low Back Pain After Lumbar Discectomy in Patients Showing Endplate Modic Type 1 Change
Ohtori. Seiji, Yamashita. Masaomi, Yamauchi. Kazuyo, Inoue. Gen, et. al.,
Spine: 1 June 2010 - Volume 35 - Issue 13 - pp E596-E600
doi: 10.1097/BRS.0b013e3181cd2cb8

(3)
Tumor Necrosis Factor-Immunoreactive Cells and PGP 9.5-Immunoreactive Nerve Fibers in Vertebral Endplates of Patients With Discogenic Low Back Pain and Modic Type 1 or Type 2 Changes on MRI
Ohtori. Seiji, Inoue. Gen, Ito. Toshinori; Koshi. Takana; Ozawa. Tomoyuki, et. al.,
Spine: 20 April 2006 - Volume 31 - Issue 9 - pp 1026-1031
doi: 10.1097/01.brs.0000215027.87102.7c

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腹圧性尿失禁への電気鍼の効果 [鍼灸関連研究報告から]

腹圧性尿失禁(stress urinary incontinence ;SUI)に対する、電気鍼と偽鍼治療の効果を比較した、中国の12病院で実施された多施設無作為化臨床試験の結果、尿失禁は正鍼群で改善したと報告されている。

参加者は504名の女性(平均年齢55.3歳 [SD8.4] 、調査完了は482名)。 要約中には経穴名は記されていないが、図で見ると、介入群(n = 252)はBL33 (中髎)、BL35(会陽)、偽鍼群 (n = 252)はその20mm外側で皮膚刺激のみ。18セッション (6 週以上)。

主要転帰は、1時間パッドテストによる尿漏れ量。ベースラインから6週後で測定。二次転帰は、72時間膀胱日誌 (72 時間失禁エピソード)で評価 。

ベースラインの平均尿漏れは、正鍼群18.4g、偽鍼群19.1g。平均72時間の尿失禁エピソードは、正鍼群7.9、偽鍼群7.7。

6週後、正鍼群の平均尿漏れは− 9.9 g、偽鍼群は− 2.6 gで、差は7.4 g(95% CI, 4.8 to 10.0; P < .001)。

平均72時間の失禁エピソードは正鍼群でより減少し、その差は1.0エピソードで1~6 (95% CI, 0.2-1.7; P = .01)、2.0エピソードは15 ~18 (95% CI, 1.3-2.7; P < .001)。

ベースラインにおける尿失禁は、パッドテストによる評価では「高度の尿失禁(10.1~50.0g)」。治療後では、正鍼群は8.5gで中等度尿失禁(5.1~10.0g)。一方の偽鍼群では16.5gで高度尿失禁のまま。

両群の効果に差は認められたが、高度尿失禁が中等度に改善したことに生活上の意味があるかは疑問。また、長期的な効果と作用メカニズムの研究が必要。

「腹圧性尿失禁」の場合、主な原因は骨盤底筋の筋力低下。軽度の尿失禁では、骨盤底筋の体操によって外尿道括約筋や骨盤底筋群を強くすることで改善が期待できる。骨盤底筋訓練などの保存的療法で改善しない場合は、ポリプロピレンメッシュのテープを尿道の下に通してサポートする「TVT手術」または「TOT手術」が適応となる。

私の記憶では、「過活動性膀胱」による尿失禁(切迫尿意)に対しては鍼治療は有効だが、鍼刺激で骨盤底筋を強化することはできないはずであり、「腹圧性尿失禁」に効果があるとは考えにくい。本当に有効であるならば、他の原因や別の作用機序を考慮する必要がある。

padテスト:
水分摂取(500ml)後に、60分間決められた動作や運動を実施し、検査前後のパッド重量を計測して尿失禁の重症度を判定する。

出典文献
Effect of Electroacupuncture on Urinary Leakage Among Women With Stress Urinary Incontinence. A Randomized Clinical Trial
Zhishun Liu, Yan Liu, Huanfang Xu, et al.,
JAMA. 2017;317(24):2493-2501. doi:10.1001/jama.2017.7220

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飲酒は少量でも認知症リスクを増加させる [医学一般の話題]

WhitehallII研究の参加者を対象とした30年関の前向き観察研究の結果、アルコール摂取量が多いほど海馬萎縮のリスクが上昇し、脳梁微細構造の違いや言語流暢性の急激な低下とも関連していた(オックスフォード大学;Anya Topiwala氏ら報告)。

アルコール摂取を1単位8gとして摂取なし群(週1未満)と比較すると、週30単位以上のアルコール摂取群が最もリスクが高く、オッズ比[OR]:5.8(95%信頼区間[CI]:1.8~18.6、p≦0.001)で、6倍近い。適度なアルコール摂取群(週14~21単位)でも、右側海馬萎縮のリスクは(OR)3.4(95%CI:1.4~8.1、p=0.007)と、3倍以上上昇した。

また、少量摂取群(週1~7未満単位)の認知機能低下への予防的効果は認められなかった。

大量飲酒は、コルサコフ症候群、認知症、広範囲の脳萎縮と関連する。一方、少量のアルコール摂取は認知機能障害の予防と関連があるとする研究報告もあるが、証拠は不十分で、この研究結果によって否定された。

対象者は、英国の一般公務員を対象としたWhitehall II研究(1985~2015年)に登録され、第11期(2011~12年)の調査に参加した6,306例の中から1,380例を無作為に抽出。この中で、imaging substudyへの参加に同意し、脳MRI検査を実施できる550名(CAGEスクリーニング質問票2点未満の非アルコール依存者、Whitehall II研究開始時の平均年齢43.0±5.4歳)。

試験終了時(2012~15年)に脳MRI検査を実施し、30年にわたって前向きに収集されたアルコール消費に関するデータを用いて1週間のアルコール摂取量と認知機能について解析。

今回の結果は、イギリスにおける最近のアルコール摂取制限を支持しており、アメリカの推奨量に対して異議を唱えるものである。しかし一方、MRI検査時点の認知能力や、意味流暢性または語想起の経年的な変化との関連は確認されていないことや、観察研究であること、アルコール摂取量が自己申告であるなどに研究の限界がある。しかし、アルコールが基本的に毒物である事実に変わりは無く、過剰摂取による社会的損失は世界的な問題であり、WHOはアルコール摂取の削減を喫緊の課題としている。

厚生労働省研究班の推計によれば、日本における、アルコールの過剰摂取による経済的損失は年間4兆1483億円(2008年)に達するとのこと。その内訳は、肝臓病、脳卒中、癌、および外傷の治療費に1兆226億円。 病気や死亡による労働損失と、生産性の低下などの雇用損失の合計は3兆947億円。 自動車事故や犯罪などの社会保障に約283億円。しかし実際は、未推計の間接的影響を考慮すればこの金額よりもさらに高くなる。

出典文献
Moderate alcohol consumption as risk factor for adverse brain outcomes and cognitive decline: longitudinal cohort study.
Anya Topiwala, Charlotte L Allan, Vyara Valkanova, Enikő Zsoldos, et. al.,
BMJ (Clinical research ed.). 2017 Jun 06;357;j2353. doi: 10.1136/bmj.j2353.

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母体の肥満重症度は先天性奇形リスクに関連する [医学一般の話題]

乳児約100万人(1,243,957)を対象にした、スウェーデンにおけるコホート研究で、母体の肥満重症度(BMI)の増加とともに、すべての主要な先天性奇形と臓器特異的奇形のリスクが増加した。

妊娠初期における母胎の正常体重をBMI 18.5 to <25として、過体重BMI 25 to <30, 肥満クラスI :BMI 30 to <35), II :35 to <40, III:≥40 , 正常以下BMI <18.5を比較。

合計 43,550名(3.5%)が任意の主要な先天性奇形を有し、最も一般的なサブグループは先天性心欠陥(n = 20, 074; 1.6%)。

過体重:3.5% ;1.05 (95% confidence interval 1.02 to 1.07)
肥満クラスI:3.8% ;1.12 (1.08 to 1.15)
肥満クラスII:4.2% ;1.23 (1.17 to 1.30)
肥満クラスIII:4.7% ;1.37 (1.26 to 1.49)

先天性心奇形のリスク
過体重:1.05 (95% confidence interval 1.01 to 1.08)
肥満クラスⅠ:1.15 (1.09 to 1.20)
肥満クラスⅡ:1.26 (1.16 to 1.37)
肥満クラスⅢ:1.44 (1.27 to 1.63)

肥満重症度に関連する臓器特異的リスク比の増加が最大となったのは、神経系であった。

過体重:1.15 (95% confidence interval 1.00 to 1.31)
肥満クラスⅠ:1.44 (1.20 to 1.73)
肥満クラスⅡ:1.65 (1.23 to 2.21)
肥満クラスⅢ:1.88 (1.20 to 2.94)

肥満クラスⅢでは、神経系の奇形が88%増加した。

性器や消化器系の奇形も、肥満の母親の子供で増加した。

母体の肥満重症度によって、子供の主要な先天性奇形のリスクが増加する。これは、妊娠前においてBMIが正常範囲であることの重要性を意味している。妊娠初期の8週間以内に器官が発生するため、妊娠後の体重減少の予防効果は期待できない。従って、若い女性が受胎前に正常な体重を得ることを奨励するべきである、と述べられている。

出典文献
Risk of major congenital malformations in relation to maternal overweight and obesity severity: cohort study of 1.2 million singletons
Martina Persson, Eduardo Villamor, Björn Pasternak, et. al.,
BMJ 2017; 357 doi: https://doi.org/10.1136/bmj.j2563 (Published 14 June 2017)
Cite this as: BMJ 2017;357:j2563

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新鮮な農産物が耐性菌の感染源になる可能性 [医学一般の話題]

アメリカでは、年間に、約200万人が抗生物質耐性菌 (antibiotic resistant bacteria ;ARB)に感染しており、そのコストは350億ドル以上におよんでいる。現在、アメリカの農業では、生産中に国内における抗生物質使用量の約80%を使用している。新鮮な農産物は非加熱によって消費されるため殺菌の行程を欠いている。したがって、耐性菌による感染リスクが懸念される。

この研究は、消費者がこれらの食品を消費するときに暴露されるARBの量を推定し、その負荷を定量化することを目的としている。

乳製品のARBは18.3 CFU/gと低く、新鮮な農産物では、オーガニックで1.97 x 10の5乗 CFU/g、従来品は1.48 x 10の6乗 CFU/gで、乳製品の1000~10000倍高い。

また、乳製品は、耐性菌CHL (Acinetobacter)が0 cfu/gで陰性、CEF (Bacillus)2.78 x 10の2乗 cfu/gが最高であった。但し、1つのヨーグルトのサンプルで、6.6 x 10の6乗CFU/g のコリスチン耐性菌が検出された。

オーガニックまたは従来の生鮮農産物や乳製品は、サンフェルナンドバレーを通じて地元の食料品店から購入。大腸菌と黄色ブドウ球菌を抑制するために、最小限の抗生物質濃度を定義。

抵抗性を調べた抗生物質は、シプロフロキサシン(ciprofloxacin;CIP), テトラサイクリ(tetracycline ;TET), エリスロマイシン(erythromycin;ERY), クロラムフェニコール(chloramphenicol;CHL),ゲンタマイシン(gentamicin;GEN), アンピシリン(ampicillin;AMP), セフォタキシム(cefotaxime;CEF), コリスチン(colistin;COL)の8種類。

CFU:Colony forming unit

出典文献
Levels of antibiotic-resistant bacteria in ready-to-eat foods.
B. Sanchez, T. Bayangos, K. Rocha, A. Noguera, E. Luna, et al.,
ASM Microbe 2017; Abstract 67.

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温暖化を目の敵にする風潮の愚 [閑話]

トランプ米大統領がパリ協定からの離脱を発表したことについて、山本公一・環境相は2日、閣議後の記者会見で「環境大臣として山本公一個人として大変に失望」、「人類の英知に背を向けた」などと述べた。トランプ大統領の考に興味は無いが、「人類の英知」とは何か。

大学院のゼミで、温暖化対策関連の事業を営む企業に勤めていた学生が、その研究目的を発表した際、「温暖化によって生態系が破壊される、、、。」と発言した。私は、温暖化で生態系が破壊されるなど、あり得ないことだと否定した。温暖化を政治問題化した政治家と、金儲けのネタにする企業にはおいしい話題かもしれないが。温暖な期間は生物にとっては極めて生きやすい時代なのだ。

現在よりも平均気温が10℃ほど高かったペルム紀は、世界中で大森林が繁茂して巨大な昆虫類が闊歩していた、生産性と多様性において豊かな時代であった。また、縄文時代が栄えていたのも現在よりも気温が3℃ほど高かったためであり、気温の低下によって滅びたのである。

300万年位前から、氷期と温暖期がほぼ10万年のサイクルで繰り返されるようになったが、温暖な時期はその中の1割に過ぎない。人類は、現代のような氷期と氷期に挟まれた例外的に温暖な運の良い時代に生きているのである。

最近の数千年では、夏の日射量は極小付近まで低下しているにもかかわらず温度は上昇している。この8000年間の乖離の原因を水田による農耕によるとする説もあるが、正確には不明である。理論上、とっくに氷期に入っているはずなのに、人為的に排出された温室効果ガスによって氷期の到来が先延ばしされているとすれば、それは人類にとっては喜ぶべきことと言える。

通常、温暖期では、気候は安定して暖かいが極めて短期間である。一方、寒冷期においては、気温は不安定で温暖な時期もある。しかし、その期間は長く、過去7回の氷期を見ると次第にその期間は長くなっており、次は10万年ほど続く可能性もある。全球凍結となる大氷河期ともなれば、人類は半数も生き残れないであろう。現在のように、寒暖の差が激しいのは氷期の特徴であり、すでに氷期に入りつつあるように思われる。一度始まれば、わずか数年で氷期となる。今、現在の温暖な気候にむしろ感謝すべきなのだ。

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赤身肉による死亡リスク増加はヘム鉄・硝酸/亜硝酸塩が関与する [栄養の話題]

赤身肉の摂取による健康上のリスク増加は、ヘム鉄・硝酸/亜硝酸塩が関与している。一方、家禽や魚などの白身肉はリスクを低減する。

アメリカの6つの州と2大都市圏における、人口ベースのコホート研究(“dietary data of the NIH-AARP Diet and Health Study食餌のデータと健康調査” )
(しつこいようだが、「diet;ダイエット」とは食餌のことで、痩せるための行為ではない。)

参加者はAARPメンバーの536, 969名(ベースラインで50-71歳)。

赤身肉 (牛肉、子羊、豚肉) および白身肉 (家禽・魚)、ヘム鉄、硝酸塩/亜硝酸塩の全ての摂取量をアンケートに基づいて処理し、カロリー調整摂取量の最低5番目を使用してcox 比例ハザード回帰モデルで推計。主要評価は、フォローアップ期間の全原因死亡率の測定。

赤身肉の最高摂取量対最低5番目とのハザード比1.26(95% confidence interval 1.23 to 1.29)。死亡率の増加は、アルツハイマー病による死亡を除く、9種類の原因による死亡率で観察されたが、慢性肝疾患は特に高かった (hazard ratio 2.30, 1.78 to 2.99)。

白身肉の摂取量の最も高いカテゴリーの人々は最低レベルと比較して、全原因死亡率リスクが25% 減少し、慢性肝疾患ではハザード比0.32(hazard ratio 0.32, 0.24 to 0.42)で、68%減少した。この傾向は未処理の白身肉で特に強かった。

全体的な死亡率リスクは、ヘム鉄の高摂取量で増加し (最高対最低第五のハザード比 1.15;1.13 to 1.17)、原因では、癌およびその他の未知の原因10%、腎臓病34%。

加工肉の硝酸摂取量に関連するリスク増加は、糖尿病のハザード比1.39(hazard ratio 1.39, 1.24 to 1.55)、呼吸器疾患 1.38(1.29 to 1.48)、腎臓病 1.35(1.16 to 1.58)。

加工赤身肉によるヘム鉄と硝酸/亜硝酸塩の摂取量は、ほぼ全ての原因による(アルツハイマー病による死亡を除く)死亡率と独立した関連付けが示唆された。

従来の研究でも、加工肉は、特に冠状動脈性心臓病、脳卒中、および糖尿病のリスクを高めることが示されている。これは、ナトリウム、硝酸塩、および処理された肉の亜硝酸塩の高い含有量に起因している。

ヘム鉄と硝酸/亜硝酸はプロオキシダントであり、酸化ストレスバイオマーカーと脂質過酸化を誘発するため、臓器の酸化的損傷や炎症を促進し、糖尿病、心血管疾患、および癌などに関与する。

また、硝酸塩/亜硝酸塩の代謝はn-ニトロソ化合物の形成に密接に関連している。n-ニトロソ化合物は、発癌、冠状動脈性心臓病やインスリン抵抗性のリスクを高めることが示されている, n-nitrosohemaoglobin と n-nitrosomyoglobin は、ヘモグロビンとミオグロビンと亜硝酸塩の反応の結果として形成される、また、一酸化窒素は、これらのヘムタンパク質と直接反応して n-ニトロソ化合物を形成する。

因みに、野菜には亜硝酸および硝酸塩が多く含まれており、口腔内のバクテリアや胃酸と還元酵素が反応して亜硝酸になり、肉や魚の第2級アミン(ジメチルアミン)と反応して強力な発癌物質であるニトロソアミン類に変化する。このジメチルアミンは加熱によって含有量が増加し、焼きサンマでは17倍にも増加する。ビタミンCはこの反応を抑制するため新鮮な野菜では安全であるが、古ずけの漬け物と焼き魚などを組み合わせて食べると強力な発癌物質が作られることになる。昔、東北地方で胃癌が多かったのは、漬け物の塩分が原因ではなく、ニトロソアミンであると言われている。 

米国農務省による分類では、ミオグロビンのレベルが 65% 以上含まれるものを赤身肉としている。

出典文献
Mortality from different causes associated with meat, heme iron, nitrates, and nitrites in the NIH-AARP Diet and Health Study: population based cohort study
Arash Etemadi, Rashmi Sinha, Mary H Ward, et al.,
BMJ 2017; 357 doi: https://doi.org/10.1136/bmj.j1957 (Published 09 May 2017)
Cite this as: BMJ 2017;357:j1957

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めまい患者の頚椎椎間板にはルフィニ小体が豊富に存在する [医学一般の話題]

椎間板サンプルの調査によって、めまい患者の頚椎には他の椎間板に比べてルフィニ小体が豊富に分布しており、めまいの病態に重要な役割を示す可能性があると報告されている。

54患者から61サンプルと、コントロールとして、8死体ドナーから40サンプルを採取。
めまいの原因として「頚性めまい」もあるが、要約のみ読んでいるため、めまいの詳しい原因や、コントロールの生前のめまいの既往などは不明。

以前の限られた研究では、正常な頚椎椎間板は固有感覚機能を有していると考えられている。いくつかの臨床研究によって、頚椎症の患者では姿勢制御と主観的なバランス障害が示唆されていた。

また、めまい患者の3つのサンプルにおいてゴルジ小体が見られたが、パチニ小体は全てのサンプルで発見されなかった。

ルフィニ小体(Ruffini corpuscle)は遅順応性機械受容器で、皮膚にかかる圧を感知して指の定位・運動の制御や運動感覚を受容する。持続的な圧力だけでなく、角度などの機械的変化を感知し、遅順応性の温度受容器としても働く。

出典文献
Mechanoreceptors in Diseased Cervical Intervertebral Disc and Vertigo.
Yang, Liang, Yang, Cheng, Pang, Xiaodong, Li, Duanming, et al.,
Spine: 15 April 2017 - Volume 42 - Issue 8 - p 540–546 doi: 10.1097/BRS.0000000000001801

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